彼は走っていた。
ただ、ひたすらに走っていた。
砂利を、草原を、山道を、そして砂浜を。
そして、固いアスファルトの上にたどり着いた時、彼は他のことは何も考えることができなかった。
もう少しだ。
もう少しで間に合う。
もう少しだけ待っていてくれ。
もう少しだけ俺が頑張れば、頑張って走れば、見えてくるはずだ。
あの建物が。
君がいるあの建物が。
あの・・・。
・・・・・。
見えた!
もう目の前だ!
もう・・・・。あ・・・。
足が・・・?
まさか、限界・・。
そんな・・ここまで来て・・・。
ダメなのか?
そんなこと・・・。
それじゃ、あまりに・・君が可哀想過ぎる。
あんなに・・・あんなに楽しみにして待っていたのに・・・。
くそ・・・。
こんな・・こんなところで・・・。
負けてたまるか!
彼は立ち上がった。
すでに、気力のみでようやく立っている状態だった。
何ヶ月も、彼は紙の上でしか彼女と接することができなかった。
彼女は何ヶ月も、自力では動けない状態だった。
そして二人の間の障害は、とても大きかった。
だから彼女と逢えるようになったことを知って、遠い所からここまで来たのだった。
しかしその知らせは同時に、彼女には時間が無いことを示すものでもあった。
急がなければ・・・。
今急がないと、一生後悔することになる。
・・・もし間に合わなかったら・・・。
そんなこと・・・あってたまるかっ!!
ここまで・・・やっとここまで来たんだ。
俺は、これ以上無いくらい待って、待って、待ちつづけていたんだ。
俺は、彼女のことをあきらめられない。
せめて一目だけでも・・・。
彼は、また走り出した。
すでに、そのスピードは相当遅くなっていた。
しかし、その足は彼女の元へ確実に進んでいた。
もう、少しだ・・・。
もう少しで・・・・・・・。
・・・・・・・。


「あ〜、すみません、そのゲームは今在庫切らしてるんですよ。」


・・・サクラ・・・どうして待っていてくれなかったんだ・・・・。

彼の夏は終わった。

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